glass bridge/Life of Haizukaグラスブリッジ・ハイズカニイキルモノ

約10年の歳月をかけて実現した、ダム湖に架かる約190mの大橋の高欄や歩道をデザインしたプロジェクト。地域の象徴となる橋として、高欄の外側に2mピッチで強化ガラスプレートを計191枚取り付け、自然の中へ溶け込みつつ様々な表情を見せる「グラスブリッジ(ガラスの橋)」を提案している。また、ただ渡るだけの橋ではなく、地域や歴史と会話できるような橋のデザインは出来ないだろうかと考え、ミュージアムやゲームのように楽しめる機能を持ち込んだコンセプトとしている。

歩道側のガラスプレートには、自然観察帳(図鑑)として機能するように、ダムエリアの人々とのワークショップによって選定された、91種類の「ハイズカニイキルモノ」が美術家・藤浩志によって親しみやすく分かりやすいデザインで描かれている。

ダムに水没するエリアで生活していた人々は、生活再建地への移住を余儀なくされた。かつての生活の場で生息していた思い入れの深い動植物や虫たちを選び後世へ伝えていくことで、過去と現在をつないでいこうとするプロジェクトである。

 

Project data

 

名称 :グラスブリッジ

所在地 :広島県三次市三良坂町灰塚地内

施主 :国土交通省

主要用途 :橋梁高欄および歩道

設計期間 :1997.08〜2002.03

施工期間 :1998.03〜2007.03

設計 :吉松秀樹+アーキプロ

担当 :吉松秀樹、前田道雄

共同設計 :藤浩志(美術家/図柄作製)、灰塚アースワークプロジェクト実行委員会

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drawing

 

詳細な説明

 

過去と現在をつなぐ地域の象徴としてのグラスブリッジ

 

10年の歳月をかけて実現した、ダム湖に架かる約190mの大橋の高欄や歩道をデザインしたプロジェクトである。水没するエリアの過去の記憶と生活再建地そしてダムなどの新しい記憶をつなぐ、地域の象徴となる橋として、高欄の外側に2mピッチで強化ガラスプレートを計191枚取り付け、自然の中へ溶け込みつつ様々な表情を見せる「グラスブリッジ(ガラスの橋)」を提案した。橋の地覆部分はアルミ粉末を加えたブルージターヌ色塗装が施され、歩道部分はリサイクルガラスカレット舗装されている。

 

 

地域と会話するミュージアムとしてのブリッジ

 

ただ渡るだけの橋ではなく、地域や歴史と会話できるような橋のデザインは出来ないだろうかと考え、ミュージアムやゲームのように楽しめる機能を持ち込んだのがグラスブリッジのコンセプトである。

歩道側のガラスプレートは、自然観察帳(図鑑)として機能するように、灰塚エリア周辺から選定された「イキルモノ」が親しみやすく分かりやすいデザインで91種類描かれている。図案と倍率・頭文字・番号を入れて系統順に並べ、橋のたもとに設置された鋳鉄製の親柱にこれら全ての「イキルモノ」の名称を入れることで、ミュージアムとしての機能を持たせており、地域の人たちや訪れた観光客に発見や会話や自然への興味をもたせるような誘発性を持つデザインが企図されている。

 

 

ハイズカニイキルモノ / LIFE OF HAIZUKA

 

グラスブリッジ(灰塚自然観察帳)は、美術家の藤浩志の協力による「ハイズカニイキルモノ / LIFE OF HAIZUKA」と呼ばれるコミュニケーションアートでもある。

ガラスプレートの図柄となるイキルモノは、地域住民との数度のワークショップをうけて、500種近い生物の候補から91種類が選定されたものである。ダムに水没するエリアで生活していた住民達は、生活再建地への移住を余儀なくされた。かつての生活の場で生息していた思い入れの深い動植物や虫たちを選び後世へ伝えていくことで、過去と現在をつないでいこうとするプロジェクトである。

 

 

モノとしての力を持たせるディテール

 

土木的な制限やコストから高欄の形状をデザインをすることが難しく、標準的な車道用高欄からアームをつきだした溶融亜鉛メッキのサステイナブルな高欄デザインを選択している。

1800mm×300mmの強化ガラスプレートは高欄から300mm程突き出した鋳鉄の腕に支えられ、湖の上に浮かんでいる。歩道側のガラスプレートには、灰塚エリアに生息していた、そしてこれからも生息するイキルモノを意識させ、自然観察へと導くための、あるいは表現意欲を喚起させる装置としてのデザインが施されている。上部には灰塚エリアのイキルモノのイメージが、中央部にはその倍率が、下部には照明を拡散するストライプとイキルモノの名前のヒントとなる頭文字と番号が入れられており、橋のたもとにはそれらの名称がまとめられた親柱が設置されている。

 

 

視線によって変化する曖昧な表情

 

車道側のガラスプレートには、車のスピードに合わせて2度ずつ回転するストライプが描かれており、移動につれて印象がかすかに変化し、橋全体で波打つ様なデザインとなっている。

 

 

暗闇の中、刻々と変化する湖と橋

 

足もとに設置されたLED照明によって、暗くなるとぼんやりとガラスプレートが様々な色になって浮かび上がる。また、コンピュータ制御によってLED照明の6色がグラデーション状に変化し、橋全体のイメージが緩やかに変化する。

 

 

グラスブリッジ / 灰塚自然観察帳

 

グラスブリッジ( 灰塚自然観察帳) は、灰塚ダムの建設によって生まれたダム湖に架かる大橋をデザインするプロジェクトである。洪水調整を主目的につくられた灰塚ダムは、地域住民と旧建設省の間で合意した事業推進方式により建設された。この『灰塚ダム方式』は、「年度ごとに地域住民に当該年度の事業内容の了承を取ること」「要移転住民の生活再建を優先すること」「地域の活性化に協力すること」という三つの項目を遵守しながら、整備を進めるものである。

灰塚ダム事業に対し、地域住民・3 町( 旧総領町・旧三良坂町・旧吉舎町) は、ダム建設という地域へのダメージを緩和し、自然環境の豊かさと地域振興を結びつける環境整備の計画およびソフト事業を一貫して行ってきた。ソフト事業の中心的な役割を担った『灰塚アースワークプロジェクト(1994~ 2007)』は、ダム貯水池関連地域の自然・文化・構造物を、一つの大きな環境文化遺産として有機的に結び付けた『環境美術圏』として形成することを目指したプロジェクトである。3 町および旧建設省、建築家・アーティストなどによるアースワークプロジェクト実行委員会を母体として、アースワーク宣言や様々な活動が行われ、ダム周辺エリアの景観整備にもいくつかのアイデアが取り入れられている。ダムエリア内全域で使用されることとなったアースワークガードレールの決定や「なかつくに公園」「日回り舞台」などの高水敷エリアの景観デザイン、ダムエリアに新設された「灰塚大橋( グラスブリッジ)」「羽地大橋」「知和大橋( おととい橋)」の高欄と橋梁周辺環境デザイン、「無縁墓地」「アースワークセンター」「陶芸学習舎」にみられる地域交流拠点の整備などが、その成果としてあげられる。

 

 

灰塚アースワークプロジェクトでの提案 1997~99

 

灰塚アースワークプロジェクトの活動は、環境整備ワークショップのほか、小中学生へのワークショップ、都市部の学生を対象としたサマースクール、専門家たちによるシンポジウム、文化庁助成によるアーティスト・イン・レジデンス事業など多岐にわたっていたが、共通していたのは地域住民とのワークショップ形式が基本に据えられていたことである。

灰塚大橋(グラスブリッジ)のプロジェクトは、1997年度サマーキャンプにおける三良坂町ワークショップ(吉松秀樹)をベースとして地域住民へのヒアリングをまとめた、三良坂地区ダムエリア環境整備マスタープランの提案をきっかけとしてスタートしている。このマスタープラン案を受けて、1998年度に灰塚大橋と周辺整備計画の策定を旧三良坂町から依頼され、「記憶と記憶をつなぐ橋(思い出橋)」として、記憶など形がないものをつなぐ橋であり、タイムカプセルとしての橋であり、ギャラリーとしての橋であり、物語としての橋でもあるデザインコンセプトを提案した。また、美術家の藤浩志氏によって、三良坂地区の周回道路(アースワークサーキット)全体に自然観察をテーマとしたアートワークが点在する「自然観察園」のアイデアが提案されたことを受けて、灰塚大橋の高欄に様々な提案を受け入れ可能な強化型板ガラスのプレートを設置し、周辺の生物の要素を取り込む「自然観察帳」としてのプランが提案された。

 

Bridge between memories 記憶と記憶をつなぐ橋 / 思い出橋(1998~99)

Bridgeには「つなぐ、埋める」という意味がある。長さ約190mのグラスブリッジは、物理的に両岸をつなぐだけではなく、記憶など形のないものもつなぐものである。タイムカプセルとしての橋でもあり、ギャラリーとしての橋でもあり、物語としての橋でもある。歩道側95枚、車道側96枚、計191枚のガラスプレートは、グラスブリッジをつつみこみ、自然の中で輪郭を曖昧にしている。

 

 

灰塚アースワークプロジェクトでの提案 2000~02


2000 年度には、1998 年度に策定された計画に基づき、工事の進歩に合わせた詳細デザインの検討と地域住民へのヒアリングがおこなわれた。高欄の外側に取り付けられるガラスプレートのイメージに合わせて、橋の地覆の色をアルミ粉末を加えたブルージターヌ色塗装とし、歩道をブルーのリサイクルガラスカレット舗装とした。

橋梁の取り付け部分の形状が確定したため、ガラス板を取り付ける高欄のデザインや足下部分の コンピューター制御によるLED 照明、また橋のたもとに設置される親柱をガラスプレートと同様に様々なイメージを受け入れるデザインインフラとしてデザインすることなどが提案された。2001 年度は、ガラスプレートの製作条件を詰めるとともに、美術家の藤浩志氏* の協力のもと、歩道側のガラスプレートに描かれるデザインを地域住民とのワークショップで決定した。「自然観察帳」のコンセプトに合わせ、水没するダムエリアに生息していた動植物たち「ハイヅカニイキルモノ」91種類がワークショップによって選ばれ。車道側のガラスプレートには、車の動きにつれてイメージが変化するストライプのデザインが提案された。

 

 浩志(Fuji, Hiroshi) 藤浩志企画制作室代表、美術家  http://www.geco.jp/

1960 年 鹿児島生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了後、パプアニューギニア国立芸術学校講師、都市計画事務所勤務を経て藤浩志企画制作室を設立。[ 地域資源、適正技術、協力関係]から発生する表現活動を志向する。現在福岡県糸島郡在住。主な表現として「ヤセ犬の散歩」「お米のカエル物語」「Vinyl Plastics Connection」「Kaekko」等。

 

 


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