uto marina house 宇土マリーナハウス

宇土マリーナハウスは、くまもとアートポリス参加事業として計画された、熊本未来国体1999ヨット会場の管理施設である。マリーナの全体計画から、ひとつながりの建築ではなく、街のような群造形をめざし、複合建築に「連続体メソッド」が応用できるかが試みられている。

宇土マリーナハウスは平成11年に開かれる熊本未来国体ヨット会場の管理施設であり、くまもとアートポリス参加事業として計画されたものである。当初埋立て工事の為に土地利用計画が制限されていたが、マリーナ運営コンサルタントを加えてエリア全体をマリーナパークとして捉える提案を行った。公共としてのマリーナとはなにかを考え、都市デザイン的な視点がこれからのウォーターフロント開発には欠かせないと考えたからである。

 

全体計画では機能的なゾーニングを排し、施設を海沿いに駐車場をループ状に配置した。これは公園各所へのアクセシビリティを高め、開放的な管理を可能とするものである。一体となった緑のフリースペースを確保することによってふらっと遊びに来れる公園とし、マリーナを生活の場へ近づけていこうと試みた。

 

宇土マリーナハウスは、マリーナの管理運営機能にレストラン、研修というマリーナパークに訪れる人々のための機能を加えたものだが、こうした複合施設は意外と事例が少ない。修理庫、艇庫といった付属施設のプログラムとともに運営面からマリーナパークに必要な機能の検討をおこない建築計画の提案を行っている。その結果、複数の機能を敷地全体に効率よく配置するために、公園に集う人々やマリーナを生活の場とする人々にとっての「家」であり「街」であるようなイメージが求められていると考えた。中心となるマリーナハウスは、ドックシステムをのぞむ位置に配されている。ここはマリーナの成長にあわせて様々に発展する場所でもある。ウォーターフロントに魅力的な町並みが形成できるような骨格をつくるために、ひとつながりのマッスとして計画するのではなく、いくつかの建築を寄せ集めたイメージで設計が進められている。

 

設計手法では、以前から行っている「連続体メソッド」が複合体に応用できるかを試みた。最小限の基本モデルを作成し、それらを変形する作業によって様々な残余空間(ヴォイド)をつくりだそうとする試みである。具体的には、最初にあたえられた機能を整理して複数の系(ゾーン)をつくり、必要なヴォリュームを与えたゾーンモデルをつくる。それらを集合させた最小限モデルを作成し、その後ヴォリュームを切り離して必要な動線を確保していく作業を行った。空間にクレバスのような隙間を造っていく作業である。結果的に各ゾーンは、管理上も計画上も建築の形態上でも独立した小さな建築となっていき、その各々を連続体メソッドによって、さらに水平垂直へと変形させている。平面的には、直方体からなるヴォリュームから斜線をもちいて面積をカットしていく方法と機能面より図形をシフトさせて動線を確保する方法を同時に行い、機能的な関係性を保持したまま面積のシェイプアップを実現している。

 

共用部分が少なくいわゆるパースペクティブなインテリアがない建築となったが、内部と外部を反転して扱うことによって内外部を意識させない群造形となったと考えている。またボートヤードに分散させた修理庫、艇庫もスケールアウトしないように形態を幾何学的にできるかぎり還元し、同様のテクスチャーを与えることによってマリーナパーク全体の連続性を高めていくように考えたものである。

 

 

名称 :宇土マリーナハウス

受賞 :日本建築家協会新人賞 1999 / アーキテクチャー・オブ・ザ・イヤー 1999

所在地  :熊本県宇土市

施主   :宇土市

主要用途 :マリーナハウス

設計期間 :1996.03〜1997.01

施工期間 :1997.06〜1998.08

設計  :吉松秀樹+アーキプロ

担当   :吉松秀樹、小林賢司、前田道雄

構造設計 :松本構造設計室

設備設計:大央設備設計

施工会社 :西松建設九州支店

敷地面積 :26,283.62 ㎡

建築面積 :1,046.32 ㎡

延床面積 :1,380.16 ㎡

構造   :鉄筋コンクリート造+鉄骨造

階数   :地上2階

掲載誌  :Kumamoto Artpolis : Architecture Through Communication / space 9905  / 新建築 9811 / KB 9811 / SD 9704

 

 

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連続体メソッド(CONTlNUUM METHOD)

 

80年代のポストモダンムーブメントは、形態とはいったいなにかという問題意識を私たちに植え付けた。その結果、制度や物理的な重さに対抗して軽さを主題とした建築が提案されてきたが、これは建築を成立させてきた様々な条件をより希薄な条件へと移し替えようとした試みであったといえるだろう。こうした経緯をうけて、形態をどう扱うのかという問題意識は設計において重要な要素となり、その意識は「形態の消去」へと向かっている。形態を扱わねばならないことが職能の一つである設計者にとって、形態を消去するとはどういう行為であるのか。この矛盾する命題に対して建築家は様々なアプローチで答えようとしてきた。

直接的に透明性を確保し、かげろうのような(エフェメラルな)建築を目指す方向性がそのひとつである。仮設的な要素を持ち込むことによって建築のもつ継続性に軽やかさや儚さを与えようとする試みもこの方向性に含まれるだろう。もうひとつの方向性は、要求された機能から導き出される解答を全て網羅し、分析の結果得られた計画を直接形態へと昇華させようとする考え方である。このアプローチは、建築のプロセスを整理し直すいわば設計システム論とでもいうべきものであり、設計行為をより厳密な作業へと置換することにより、建築の形態の創造を分析へと移行させる考え方である。最後の方向性は、最も曖昧な要素を多く残すモデリング作業をより透明な方法へと移し替えることによって、建築家が最終的に持ち得なければならない思考と形態との間の距離を縮めていこうとする考え方である。

私たちがここ数年おこなっている設計は、このモデリングに関するメソッドの開発に基づいている。このメソッドを、そのシステムと形状から「連統体(CONTlNUUM)」メソッドと呼んでいる。「連続体」は主に数学や物理学において使われている用語*1で、ここでは立体がつながっているという意味ではなく、お互いに関係しあう状態を示している。

その出発点はシステムによって空間がつくられていくことに対する興味である。それは本来私的な表出である「建築」にどういった未来があるのかを考えた結果であり、自分自身が持っている建築的規範をそぎ落とす方法を自問した結果でもある。

「連続体」メソッドには、2つの意味が込められている。1つはより少ないパラメータにより空間を決定していく方法の探求である。それはあるl点を押すと他のポイントが連動して変形していくモデリングであり、外的要因や内的要求によってモデルが変形し収束することに対応できるゴム膜のような建築モデルでもある。もうひとつは、幾何に還元することによって意味性を希薄とさせながらも、連続体となるようにモデリングしていくことによって「建築」としての記号性を確保しようとする考え方である。これは、都市や自然の中に埋没することが望ましいと思われる環境において、視認性と消去性という背反する要求を正確に記述したいとする思いであり、塑形という行為を演繹的に行う実験でもある。

具体的な作業としては、面積や機能的要求からつくられるヴォリュームの組合せのシミュレーションを行い、条件にもっとも合致すると思われる空間モデルを選択し、それを基本モデルとしてモデリングの作業を間始する。モデリングの作業は、主に直方体の組合せからなる基本モデルの頂点を押したり引っ張ったりする変形のシミユレーションである。モデルの数値化に関しては、ポイントの数値が連動して決定されていくような設定を行い、与えなければならないパラメータを極力減らしていくようにトライ&エラーを繰り返していく。現在の連続体モデルは基本的に平面の組み合わせによってつくられているため、3点が決まれば同一平面上の他の点は決定されていく。したがって、平面が連続していくと与えなければならないポイント数は減少していくこととなる。

このメソッドは手法によって特殊解を作り出すことが目的ではなく、モデリングという行為をいかに透明にしていくことが可能かという点に問題意識があり、また設計者にとっての作品という概念を問い直す作業でもある。

 

*1 連続体とは? 

離散体に対して、共通部分のない2つの閉集合に分けられない集合、2点以上からなる連結でかつコンパクトな距離空間を連続体という。また物質を質量・運動量・エネルギーなどが時間・空間的に連続分布していると見なすとき、その物質を連続体と呼ぶ。

 


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