和風と日本(住宅特集0510)

ある企画会議で,現在の日本人にとって ふさわしい建築スタイルとは何かという 議論になった。興味深かったのは,和風と いう言葉を使うとある固定層は得られるの だが,敬遠する層も少なからずいるという 意見であった。たしかに和という言葉に妙 な拒絶感をもつ層が存在しているように思 う。常に欧米を向いて教育を受け働いてき た人たちは,和というテイストに複雑な接 し方しかできないのかもしれない。タタミに座ると安心感があるのに和風の空 間をつくるのには抵抗がある。それは合理 性の前にそのノスタルジックな想いが打ち 崩されてきたからだ。和風は非日常であり, 遠く想いをはせるものでしかない。だから, 和風を積極的に評価しようという企画はポ ジティブな評価を得にくいのだ。かくいう自分も和風という言葉に抵抗がある。勿論和風は○○風でしかないという思 いも強い。でもそれは自分の中の「日本」 に確信をもてないでいるからだと思う。かつては,地域性以前に考えることがある と思っていた。でも,海外へ行く度にその 考えは変化してきた。先鋭的に見える建築 がなんらかのかたちでその地域に根ざして いることを確認させられるからである。ズ ントーしかり,ヘルツォークしかり。勿論それはいつも伝統的な形態や素材に よって表現されているわけではない。理念 や抽象概念の場合もある。ただ,そういっ た建築のほうが素直によい建築だと思える 場合が多い。ユニバーサルな建築であれば あるほど,建築の印象は希薄になり,心に 響くような空間体験になりにくいのだ。 60年代の伝統論争とはすでに時代が違う。今だからこそ,僕たちはすべてを等距離で 見て,日本を考えることが重要なのではな いかと最近よく思う。(吉松秀樹)


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