ユーズドジーンズ建築 / アコ・ハウス:塚本由晴(住宅特集0601)

 

アトリエ・ワンの住宅は、今までタイミングがあわず、初めての近作訪問である。闊達な文章の塚本由晴さんとその開放的なキャラクター、そしてアトリエ・ワンの建築。その関係は、共同設計だからだからか、分かるようで実はよく分からない。

 

今回の「アコ・ハウス」は、佐藤光彦さんの「門前仲町の住宅」「中野の住宅」の時にふれた、いわゆる「折りたたまれたワンルーム」形式の住宅である。ほぼ同じコンセプトなのに、佐藤さんとアトリエ・ワンでまるで違う解決となる。塚本さんの文章では「ワンルームを3層積み上げて縦に階段で串刺しにする構成」とある。そのアプローチの違いと、誌面では伝わらないであろう、空間の魅力に興味を持って伺うこととなった。

 

小田急線の駅からタクシーで閑静な住宅地にある敷地へ。小さな公園に道路をはさんで面したコーナーに、大きな薄いブルーの塊がどんと置かれていた。天空率の計算により、周辺より少し大きめのボリュームであるようだ。

 

ある建築家に、見るなりスタイロ建築と評されたらしいが、なるほど言い得て妙である。ざっくりとスタイロフォームを切り出したようなラフな質感の塊に、大きなステンカラーの窓がまるでスケッチで描いたようにポンポンと開けられている。ただそれだけの外観。あたかも集団規定のスタディーのように要素が少なく、スケールがつかみにくい建築である。一時期はやったヘタウマ画風といったら失礼だろうか。

 

塚本さんに建て主を紹介していただいて驚く。建て主の方は、知人のサウンドアーティストだった。

そこで、取材のはずがすっかりお宅訪問になってしまい、塚本さんが連れてこられた留学生達と一緒にくつろいだ時間を過ごす。塚本さん達はとても仲がよく、アーティストのコラボレーションのような設計時のかけあいの話を披露してくれた。おかげで、この住宅の雰囲気と成り立ちはよくつかめたような気がする。

 

ボリュームの隅にさりげなく付けられたドアを開けると、すぐに右側の壁が本棚で埋められた2層の図書室。目の前にまるで番台のような感じで作業机があり、その脇をすりぬけるように上っていく。壁の上部がねじれているからか、屋根裏へ登るという感じである。中2階は宙に浮かんだ形の浴室。その下に音楽スタジオがある。さらに登って2階の居間へ。またグルグルと2層登ると屋外テラスへ到達する。計5層の床がいわゆるスキップフロアでつながれた構成である。

 

しかし、図面を見ても、実際に訪れても、空間構成、特にプランの向きが認識しづらい。スキップフロアーを隔てる壁が3次曲面になっているからだ。塚本さんによると、階段を空間から切り離したくなかったからだそうで、階段の上り口と上がり口をつないでねじれた3次曲面壁が作られている。

 

階段を消すのに、非常にシンプルで効果的な方法である。発明的なデザイン。この曲面は、法規的には壁のままで床面積にはカウントされず、空間に広がりと上下との連続感の両方を獲得させることに成功している。

これは、床面積を最大にしたまま、空間の認識のみを揺れ動かしていく技術である。大きなワンルームの空間をいかに3次元的に分割していくかというアプローチであり、この立体ワンルームは、ロッククライミングのような体験を感じさせる。スラブと階段という住宅の構成要素を統合しようとする試みであるともいえるだろう。

 

どうしてこういう建築になったのかを二人に尋ねてみた。

建主は、とにかくつながった自由な空間が欲しかったのだそうだ。だから、日溜まりに応じて居場所を移していけるような構成になっている。実際、家具もほとんどなく、いろんな場所で寝ているとのこと。仕事も気分に合わせていろんな場所でする、いわば、ネコのような暮らしができる家である。また、外観に興味はなく、いわゆる白いモダン建築は嫌だったとのこと。それがこの薄いブルーの外観へつながっている。塚本さんは、教会のような空間も提案したのだが、結局このねじれスパイラルのような空間になったという。

当初、各壁は異なる色で塗られていたのだが、空間が主張しすぎて分断されてしまうのため、最後に白く塗り替えたそうだ。そのおかげか、空間は宙に浮遊するような感じに見え、部屋の個性が中和されて、連続感が強調されていた。当日は片づけられていたためか、特にそういう印象が強かった。

おそらく普段は、もっと各スペースがカスタマイズされていて、気にいった場所へ移動しながら暮らされているのだろう。そういった気楽さが、ピシッと建築化されている点が興味深い。

住宅を見に行く度に、きっちりと機能にあわせて空間が作り込まれた住宅の良さもあるけれど、ざっくりした住宅の良さもあるはずだと思う。丁度、オーダーメードスーツもいいけれど、ジーンズの良さも捨てがたいといった感じである。普段ラフな格好をしているのに、住宅だけきちんとしているのになじめない人もいるだろう。

最近のジーンズが、着古した快適性と新しいデザイン性の両方を産み出したように、建築にもドレスダウンしたジャンルがあって良い。ジーンズやスニーカーのようなカジュアルさと新しいデザイン技術がミックスされた住宅。

アトリエ・ワンは、そういった意味でデザイナージーンズのように、新しい感覚のユーズドジーンズ建築が作れる希有な人たちなのかもしれない。



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