アトリエの存亡(住宅特集0508)

 

ここ数年、取材や審査など国内外で建築を見る機会が随分と増えた。オフィスや店舗と様々な建築を見ると、やはり見なければわからないことを再認識するとともに、色々と考えさせられる。

オフィスビルは、どれもある水準のデザインと計画が技術的にサポートされている。店舗のデザインレベルもここ数年で高まり、十二分に国際レベルにある。それが教育の成果なのか、情報化社会の効果なのかはわからない。少なくとも、日本建築界が目指してきた設計のスキルアップは、ある成果をあげたといえるのだろう。

しかし、素晴らしい技術の裏付けと緻密な計画に感心させられ、我が身を振り返って反省させられる点が多々ある一方、創造力という点でどうもしっくりとこない建築があるのも事実である。優等生的建築が多く、拡大再生産も多い。つまり似たような建築が手を変え品を変え、より緻密さを競っているような気がするのだ。

いわばアジア予選は文句なくクリアーして世界大会へ行けるものの、決勝リーグの壁は分厚いという感じだろうか。戦略や組織力だけでは限界がある。結局その壁を突き抜けるのは個人の突破力や決定力ということなのかもしれない。そう考えると昨今の組織事務所が、個人を前面にだした設計事務所の集合体となっているのは納得出来る。しかも社外取締役のように、社外専門家との協同すらも奨励しているという。

一昔前、修行するならアトリエ事務所でという風潮があったが、今やそれは少数派である。国内では仕事を取るにもコンペをするにもある規模と実績が要求される。組織事務所がこのまま個人の力を延ばし決定力を身につけたら、アトリエ派はスーパーサブのポジションすら危うい。アトリエ派は、古き良き時代の残党なのだろうか。(吉松秀樹)



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